『旅は道連れ、世は情け』は本当にある。兄妹のフェリー旅

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十数年前、私は兄が住む県へ一人で遊びに行きました。

帰りは兄と一緒にフェリーに乗って祖母の家に行くという、私にとってはちょっとした長旅でした。

両親は既に祖母の家に行っていて、私たち兄妹をフェリー到着港まで迎えに来くれる事になっていました。

久しぶりの兄との再会になんだか気恥かしいような気持ちになりましたがすぐに昔のようバカを言い合い、あっという間に数日が過ぎ、祖母の家に行く日となりました。

兄の車でフェリー乗り場まで行き、車は駐車場に預けて人間だけ海を渡る算段です。

車の中はちょっとしたドライブ気分で、曲を聞きながら歌ったり二人でハモったりしてウキウキしていました。

さあ、フェリー乗り場に到着です。

一時間以上も前に到着したので気分は楽勝でした。

楽勝ではあったのですが、金銭的にはピンチでした。

二人ともお金を下ろす時間を逸していたので、数千円しか持ち合わせていませんでした。

でもフェリーのチケットはもう持ってるし、他に何かお金使うことある?もしあってもフェリー乗り場の近くには郵便局くらいあるでしょと、若いバカ兄妹はそんなことはあまり心配していませんでした。

まあとりあえずは駐車場・・と探しましたが、どう見てもフェリー乗り場しかありません。

兄が車から降り、張り紙を見てこちらに走ってきます。

明らかに何かが起きているのが見て取れました。
「ヤバい!駐車場はここから車で二十分って書いてある!」ということは、帰りも二十分という事です。

え?どうやって戻って来るの?そう思ってるところにたたみかけるように兄が続けます。
「しかも先払いだ!四千八百円!」さっきまでのあの楽しくハモってたドライブが一転修羅場です。

改めて周りを見回しましたが、そこにはフェリー乗り場しかありませんでした。

郵便局もATMもありません。

そして茫然としてる暇もありません。

いきなり金銭的にも時間的にもピンチに追い込まれ、そこから駐車場への記憶が飛んでいます。

なんとか車を停めましたが、駐車場のおじさんに聞いてもどうやらフェリー乗り場行き専用バスなるものはないらしく、私たちに残されたのはタクシーかヒッチハイクです。

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手元に残った千二百円と数枚の十円玉や一円玉を見てヒッチハイクが頭を過りましたが車はタクシー以外一台も走ってないのです。

ここで兄が“お兄ちゃん”に戻る懐かしい姿を見ました。

迷わずタクシーを停め事情を今までの経緯を説明しました。

苦い顔をする運転手さんに
「行ける所までで良いので乗せてください。」と懇願し、乗せてもらいました。

ここからは料金メーターとバカ兄妹の息を飲む闘いの始まりです。

非情にもメーターはドンドン上がります。

車内はものすごい緊張感で、運転手さんも私たちも無口です。

ああどうしよう、これどうなるんだ?と思っていると、遂に千二百円になってしまいました。

張りつめた空気も限界になったその時、運転手さんが絞り出した声で
「フェリー乗り場まで行きます!」と苦しそうに、しかしハッキリと宣言してくれました。

パンっとメーターを止め、自棄になったようにスピードを上げ、無事にフェリー乗り場に着きました。

私たちは財布から全財産を出し、祖母に買ったお土産とみかんを運転手さんに謝りながらお渡しし、後10分で出港となるフェリーへ猛ダッシュしました。

やっと乗れたフェリー内では
「喉が渇いた」と言いながら空の財布を握り締め、ぐったりとして雑魚寝するバカ兄妹の姿がありました。

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